2015年7月08日 (水)

図書館総合展2015 フォーラム in 恩納村へご参加くださいました、鎌倉市図書館の中野陽子さんより参加レポートをお寄せいただきました。
ご執筆くださいました中野さんに心より御礼申し上げます。

日向先生、岩井さんのレポートもあわせてお楽しみください。

図書館総合展2015フォーラム in 恩納村参加レポート

執筆:中野陽子(鎌倉市図書館)

 パシフィコ横浜で年1回だけ開かれていたころの「図書館総合展」は、普段見比べることができない各社・各団体の図書館関連の製品、システム、各種サービス、書籍等について実際のところを見せてもらい、ざっくばらんに疑問点を尋ねる機会として活用していました。それは私にとって年に1度のお祭のようでもありました。それが運営形態も変化し、年1回だけでなく地方開催も始まり、ついに沖縄の恩納村でも開かれたことはたいへん感慨深いです。
 今回、地域としては基地問題で揺れている沖縄、そして図書館界で注目されている恩納村文化情報センターのある恩納村で、「地方創生」「アクティブ・ラーニング」等をテーマとして行われるということを知り、参加しました。
 図書館総合展には、時々の重要なテーマについて、鍵となる発言者を招き、議論を闘わせてもらうことで、今後の図書館の方向性を探ろうとする熱意の強さを感じます。

 さて、那覇空港に到着し、会場へ向かうバス中から隣り合った方達と知り合って、学校図書館や障害者サービス等の話を聞き、さっそく仕事の参考になるヒントをもらい、密度の濃い時間がスタートしました。
 【クロストーク「地方創生! 沖縄の図書館振興とまちづくり支援・課題解決支援」】では、水畑順作氏(文部科学省 生涯学習政策局企画官)は、“図書館が必要不可欠な存在になっていない。専門性を発揮し、他の専門家をつなぐ土台の役割を担うため、まちづくりや政策決定の場(各審議会等)で論議されていることを把握して、図書館内からの発想だけでないサービス展開が必要ではないか”と提言されました。
 これに呼応して、神代浩氏(文化庁・文化財部 伝統文化課長・図書館海援隊長)は、“図書館は不可欠な存在である。そう発信していくべきだ。図書館は住民の課題解決を支援する役割を担わなければならない。”と発言。図書館(図書館職員)は役割のコアの部分を把握し、確信を持って、説得力あるサービスや広報活動を行うべきであると参加者に訴えたのだと思います。山口真也氏(沖縄国際大学日本文化学部日本文化学科教授)は、沖縄県の図書館の歴史的経緯(戦争、占領の影響)と実際に調査した現状の報告をされました。“沖縄は地域資料の収集が充実しているとよく言われているが、出版されているものが大半を占めている、ちらし等を含めた積極的な地域情報の収集が望まれる”という指摘が印象に残りました。地域課題の解決には、行政内文書はもちろん市民活動の動きも積極的に集めることが求められます。課題解決支援を目指す全国のどの図書館にも言える重要なポイントだと思います。

 山田政寛氏(九州大学基幹教育院准教授)、呉屋美奈子氏(恩納村文化情報センター)のパネル討論【新しい図書館におけるアクティブ・ラーニング】もたいへん興味深く聞きました。アクティブ・ラーニングは2016年から教育カリキュラムに導入される予定ということで注目が集まっています。暗記偏重から主体的に考える力を育てる教育へシフトすることを目的として、グループディスカッション、ディベート等をとり入れた学習方法ですが、教育内容の急激な変更について教育現場では疑問も出されているところです。
 このアクティブ・ラーニングと図書館について壇上でのディスカッションに加え、会場の参加者からも各種意見が出され、有意義でした。もともと図書館は能動的な学びの場であり、YAサービスなどでは従来から図書館内にグループ学習や話し合いのできる空間が欲しいという発想はあって、その一形態としてとらえることもできるな、という印象を持ったのと、学校図書館関係者から学校図書館の活用方法の検討が不足していること、教師等指導側の準備・研修が追い付いていない点についての指摘に共感しました。アクティブ・ラーニングという教育法を推進する側と教育現場が意見交換する機会がこんな風にもっと必要でしょう。
 

 2日目には恩納村文化センターをはじめとする公共図書館、大学図書館、米軍嘉手納基地内の図書館を見学することができました。大人数の見学は難しいものですが、例えば沖縄県内の方から詳しい立地条件、利用実態を聞けるなど、見学者内でも視点の違うコメントを聞きながら回ることができ、今後「ディープな図書館見学をする方法」を考えてみても面白いのではないか感じました。  
 米軍基地内の図書館については思うところ多々ありますが、私は相互貸借について尋ねました。相互貸借では、まず、県内の他の基地内図書館にあるかどうかを調べ、次に日本国内の基地内図書館、そこになければアメリカ本国からの取り寄せになるそうで、その物流頻度は、なんと毎日ということです。考えてみれば軍の物流が毎日あるわけです。軍関係者の赴任期間は2〜4年であり、家族も利用し、Facebookには子どもたちの図書館イベントへの参加の写真が多数掲載されています。ティーンエリアは独立した部屋となっており、インターネット、メール送受信などもできます。そして、ここは米国圏となりますから、膨大な電子書籍(eBooksや雑誌のZinio、Kindle Fire HD、TumbleBooks等)、AudioBookCloud等も利用できる環境でした。

 沖縄国際大学図書館は延べ床面積10,096.46㎡、図書収容可能冊数76万冊の規模という充実ぶりでした。中央吹き抜けで開架書庫地下2階分が見下ろせて、これだけの資料群が学びを支えているというメッセージを感じる建物構造でした。
 先進的な試みを行っている図書館には建築構造や機能の配置にサービス理念がにじみ出ていました。博物館、観光情報フロアとつながり、サービスも強く連携させている恩納村文化情報センター、新しい資料が重要であることを示す長い新着コーナーを持つあやかりの杜図書館や北谷町立図書館、あまり幅がなく威圧感のない小ぶりなカウンターをサービスごとにいくつも設けていた北谷町、眺めを見るだけでも訪れたくなるような展望フロア・閲覧コーナーを持つ恩納村や、北中城村のあやかりの杜図書館を見ることができました。
 図書館総合展が、今回も出展された関連企業、団体、運営委員会によって、図書館関係団体の枠を越えて広がり、組み立てられていることに可能性を改めて感じました。開催にご尽力された方々に深く感謝いたします。今後も機会があれば参加していきたいと思います。

 あやかりの杜図書館(撮影:中野陽子)